僕が夜行バスで東京駅に降り立ったのは、
奇しくも、この街で新型コロナウイルスによる最初の緊急事態宣言が発令される、まさにその前日のことでした。
胸にはエンジニアとしての新しいキャリアへの期待が詰まっていましたが、その期待は翌日、あっけなく形を変えることになります。
上京してすぐ、フリーランスエンジニアとして参画した東京の会社では、
出社することはおろか、オフィスの場所を覚える間もなく、
初日からリモート勤務が始まったのです。
「会社に行く」という行為から解放されたことで、
仕事そのものは驚くほど快適になりました。
自宅の静かな環境で、自分のペースで仕事に没頭できる日々。
しかし、その静けさと引き換えに、どこか言葉にしづらい、
じわりと広がる孤独感のようなものが常に心の隅にありました。
画面越しに交わされる業務連絡。
チャットで送られてくる「お疲れ様です」の文字。
そこには、かつての職場で感じたような、気軽な雑談や、隣の席から聞こえる息遣い、仲間と同じ空間を共有しているという微かな熱量は存在しませんでした。
たまに社会の制限が一時的に緩和され、
意気投合したメンバーとオフラインで集まる機会もありました。
顔を合わせて笑い合い、同じテーブルで食事をする。
その瞬間だけは、あのまとわりつくような孤独感は嘘のように消え去りました。
しかし、それも束の間。
自宅に戻り、再びPCの前に座り、また1〜2ヶ月もすると、
あの静かな孤独が戻ってくる。
いつしか僕は、この1〜2ヶ月に一度の集まりのためだけに、
高い家賃を払って東京に住んでいるような感覚に陥っていました。
もちろん、オフラインで集まること自体は、
非常に貴重で意味のある時間だと感じていました。
一方で、「孤独感を感じながら続けるリモートワーク」という状態そのもの、そしてその孤独を解消するためだけに「東京」という場所に縛られ続ける生活に、拭い去れない違和感を覚えていました。
出口の見えない閉塞的な日々が続き、
新しい人との出会いもほとんどない中で、
あれほど憧れていた東京という街が、
少しずつ息苦しく感じられるようにもなっていきました。
今振り返ると、変化のない日常と、
物理的な人との繋がりの希薄さが続く中で、
僕はただ、その閉塞感そのものに、深く疲弊していたのだと思います。
けれど当時は、そんなふうに自分の感情を客観的に整理できていたわけではありませんでした。
ただ漠然と
「東京という環境が自分には合わないのかもしれない」と感じながら、
もっと自分が自分らしくいられる、
好きな場所でのびのびと暮らしたいという思いが
日に日に強くなっていきました。
矛盾しているようですが、会社での業務内容そのものは、
技術的にも挑戦的で、とても楽しく、大きなやりがいを感じていました。
だからこそ、このジレンマは深かったのです。
「好きな場所に住んで、
楽しい仕事をリモートでも孤独感なく続けていきたい。」
そう強く願うようになっていました。
そんな折、現状を変えるきっかけを探して登録していた副業マッチングサービスで、一通のメッセージを受け取りました。
2021年の冬、12月のことです。

Teracy, Inc. CEOの森井からのメッセージ
メッセージは、
新しいコミュニケーションツールの開発に関するものでした。
当時の僕にとって、SlackやZoomといったコミュニケーションツールは、
あくまで業務で「使うもの」としてしか捉えておらず、
それを「自分たちでつくる」という発想は、まったくと言っていいほど僕の中にはありませんでした。
しかし、そのメッセージを読み進めるうちに、
ふと自分の経験が重なりました。
「せっかくエンジニアとして技術を持っているんだから、
道具を使う側で不満を感じているだけじゃなく、
自分と同じような孤独や不便さを抱えるプロダクトを、自らつくりたい。」
そんな思いで、僕はそのメッセージに返信しました。

当時のTeracyが掲げていたテーマは、
「全ての人に、場所を超えた機会と創造性と愛を」
というものでした。
この言葉を読んだとき、冷えていた胸の奥に、
小さな火がぽっと灯ったような、確かな感覚がありました。
僕がこの一年半、ずっと抱え続けてきた
“リモートワークの孤独“や、”場所に縛られることの窮屈さ“は、
まさにこの理念が真正面から向き合おうとしている課題そのものではないかと直感したのです。
どこに住んでいても、誰かと共にものづくりができる。
好きな場所で暮らしながら、心から信頼できる仲間と働ける。
そんな理想の世界を、
絵空事ではなく本気で実現しようとしている人たちがいる。
その熱意と思想に強く共感しました。
そして、僕自身が東京で感じてきたあの不自由さや孤独感、閉塞感こそが、このプロダクトを必要とする人たちの気持ちを理解するための「原動力」になるはずだと確信しました。
同じような想いを抱える人たちの助けになる
プロダクトをつくりたいと考え、
Teracyへの参画を決めました。
Yuya Mimura
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